【目黒区】かなざわ講座「氷室と湯涌温泉の今・昔」で学ぶ、“氷室の雪氷”復活の物語
2024年7月9日(火)、目黒区総合庁舎3階南口エントランスで行われた「氷室の雪氷」贈呈式。石川県トラック協会青年部の皆さんが運びこんだ雪氷は無事、湯涌温泉観光協会・副会長である山下さんから、青木目黒区長へと手渡されました。
その後、湯涌温泉観光協会・副会長である山下さんによるかなざわ講座がスタート。私も受講することができました。
前編では「氷室の雪氷」を復活させるまでの物語を、後編では湯涌温泉に新風を吹き込んだ再生物語をお伝えしたいと思います。
湯涌温泉観光協会主導で復活させた「氷室の雪氷」
今回のかなざわ講座を担当されたのは、湯涌温泉観光協会 副会長 山下新一郎さんです。「氷室の雪氷」復活を主導したのは湯涌温泉観光協会で1986年のことでした。
電気冷蔵庫がなかった時代は、冬に降った雪を天然の冷貯蔵庫として利用。「日本書記」にも記録が残り、1300年前のものとされる「氷室跡」が奈良の天理市で発見されているそうです。
清少納言の「枕草子」にも「削った氷に甘い汁をかけたもの(現代のカキ氷のようなもの)」を「あてなる(優雅な)もの」と楽しんだ様子が書かれています。
湯涌温泉は金沢市と富山県南砺市との間ぐらいにあり、2m近い雪が降るという豪雪地帯。かつて氷室の活用は日常であり、村の共有財産として昭和30年頃まで大切に使われてきたといいます。
しかし、各家庭に冷蔵庫が普及したことでその役目を終え、徐々に姿を消してしまいました。
この伝統的な文化や行事を後世に繋いでいきたいと考えた湯涌温泉観光協会は、金沢市の協力を得て氷室を復元。毎年、夏になると加賀藩から徳川将軍家へ献上していた「氷室の雪氷」を届ける行事を復活させた、というわけです。
かつては暑い夏場を乗り切る生活の知恵だったものが、現代では雪を活かした観光資源として独自の魅力となっているということですね。
湯涌温泉の風物詩となっている「氷室の雪氷」が出来るまで
「氷室の雪氷」は毎年、大寒の時期に湯涌温泉にある氷室小屋に雪詰めを行っています。この雪詰めにはどなたでも参加できる、冬の風物詩になっているそうです。
およそ幅4m、奥行き6m、深さ2.5mの氷室の中には約60トンの雪が詰められており、6月30日の「氷室開き」まで大切に保管。氷室小屋に残った雪氷はのこぎりで切り出され、金沢市の他、目黒区など友好都市へ贈られます。
湯涌温泉観光協会では、この氷室を有効活用すべく、2021年には湯涌地区で栽培した酒米「石川門」で造った地酒を氷室に仕込むチャレンジをしました。「白鷺」と名付けられたこちらのお酒は、やちや酒造が仕込み、純米吟醸酒として地元商店街で販売され、大変好評だったといいます。
【お知らせ】先日(6月30日)の第39回氷室開きで取り出されました『湯涌米〜氷室仕込み〜』を数量限定で販売致します。湯涌温泉の旅館や飲食店で使われている、湯涌の美味しいお米を是非ご家庭でもお楽しみください。詳しくはこちらをご覧くださいhttps://t.co/llvQc9qBxX
— わく太@湯涌温泉観光協会 (@wakuta_yuwaku) July 5, 2024
2023年には湯涌地区産のお米そのものを貯蔵。通常なら6月頃には食味が落ちてしまうお米が、まるで新米と変わらないコンディションで食べられたそうです。
山下さんは今後も氷室を活用したさまざまなチャレンジを続けていきたいとおっしゃっていました。
温暖化が進み、管理が難しくなっている「氷室の雪氷」
私たちも肌で感じているとおり、地球温暖化による気候変動は年々激しさを増している気がします。湯涌温泉ではかつてに比べて積雪量が少なくなり、また、夏場の酷暑などで氷室のコンディション維持が難しくなっているそうです。
特に2023年は氷室内の雪氷がかなり少なくなってしまい、献上の儀式が行えないかもしれないと危惧するほどだったとか。
雪氷が残っているかどうか、これまでは人力で氷室を開けて確認していたそうですが、できるだけ温度変化を少なくするため、電子デバイスを活用した状況把握をスタート。
氷室そのものに断熱材を使用することで雪氷のコンディション維持に努めています。幸いなことに2024年はとても質の良い雪氷を届けることができたとおっしゃっていました。
「氷室の雪氷」が目黒区に届けられるまで
毎年6月30日に氷室開きが行われ、切り出された雪氷は二重にした桐の長持ちに入れられます。そしてなんと、この雪氷を入れた長持ちを人力で湯涌温泉からJR金沢駅まで約17㎞の道のりを運搬しているそうです。
協力してくれているのは石川県トラック協会青年部会員の皆様。藩政期の加賀飛脚を再現しているそうです。
江戸時代にはこの長持ちを担いで、江戸までの120里(約480㎞)、山越えの厳しい道のりを昼夜4日間かけて運んだといわれています。
現代の加賀飛脚は温度管理が徹底できるトラックに詰み込み目黒区他、各地へと運んでいますが、当時は想像を絶する大変さだったことでしょう。
金沢市では氷室の開きに合わせて「氷室饅頭」を食べる習慣がある
金沢では毎年、7月1日は「氷室の日」として、ふかふかの蒸したて「氷室饅頭(酒饅頭)」が売り出され、各家庭で食べる習慣があります。
冷蔵庫もない昔にとって、夏の氷は大変貴重で、庶民が口にすることはできません。そこで氷の代わりに麦で作った「氷室饅頭」を食べて、無病息災を願う習慣が始まったそうです(引用元:湯涌温泉観光協会ホームページより)。
金沢市内で販売されている「氷室饅頭」は白・ピンク・緑の三色。白は太陽を意味して「清浄」、緑は新緑で「無病息災」、ピンクは花で「魔除け」を現わすのだそう。
しかし、3つも食べるのはちょっと大変ですよね。そこで湯涌温泉の「氷室饅頭」は3色練り込み!
3色のご利益を1個で叶えてくれるといういいとこどりの「氷室饅頭」なんです。こちらのおまんじゅう、こしあんでとてもおいしかったです。
湯涌温泉ではこの「氷室饅頭」を通年で発売しています。お出かけの際はぜひお土産にいかがでしょうか。
次回は災害やコロナ禍を乗り越え、湯涌温泉がまた大勢のお客様で賑わうようになった再生の物語をお伝えします。
■取材協力
湯涌温泉観光協会/目黒区 文化・交流課
↓かなざわ講座が行われた「目黒区総合庁舎」の場所はこちらになります。