【目黒区】かなざわ講座「氷室と湯涌温泉の今・昔」、湯桶温泉に新風を吹き込んだ「湯涌ぼんぼり祭り」が胸アツ
2024年7月9日(火)目黒区総合庁舎3階南口エントランスで行われた「氷室の雪氷」贈呈式の後に、湯涌温泉観光協会・副会長である山下さんを講師にお迎えして開催されたかなざわ講座。
前編では湯涌温泉観光協会主導で「氷室の雪氷」を復活させるまでのエピソードをお伝えしました。
後編では災害などでお客様が減ってしまった湯涌温泉に、新たなお客様を呼び込むきっかけとなったアニメ作品「花咲くいろは」について。また、湯涌温泉再生に尽力してきた湯涌温泉観光協会の取り組みについてご紹介していきましょう。
開湯1300年の歴史を誇る「湯涌温泉」
湯涌温泉はJR金沢駅から車で約30分のところにあります。湯涌温泉発祥は718年(養老2年)頃、紙すき職人が羽を休めていた白鷺を見て、熱い湯が湧き出るのを発見したという説。霊峰・白山を開いた越前の僧・泰澄(たいちょう)太師が発見したという説や富山の薬屋さんが発見したという説もあるそうです。
藩政時代には、歴代藩主の「湯治ゆ」として加賀藩御用達だった湯涌温泉。それには加賀藩が得意としてきた黒色火薬づくり(塩硝・硫黄・木炭で製造)にも関係があったのだとか。
加賀藩の煙硝(火薬のこと)は質・量共に日本一との評判で、越中五箇山で塩硝の製造を行っており、金沢にあった士清水塩硝蔵(つっちょうずえんしょうぐらあと、黒色火薬を製造した場所)に運ばれる途中で湯涌に立ち寄ることがよくあったそうです。
その運搬ルートは加賀藩が幕府に差し出す国絵図にも記載されることのない極秘のもの。土清水塩硝蔵跡は国史跡指定となり、保存整備されています。
“大正ロマン”を代表する画家・竹久夢二が愛した湯涌温泉
岡山県出身の竹久夢二は2024年で生誕140年・没後90年を迎えます。独学で画風を確立させ、「夢二式」といわれる叙情的な美人画で人気を博しました。
夢二が永遠の恋人として愛した笠井彦乃と新婚旅行同然の時を過ごしたのが、ここ湯涌温泉。「心の故郷」と記し、ここに画室を建てたいと夢を語り、生涯忘れることはなかったそうです。
夢二が彦乃、次男である不二彦とともに滞在した山下旅館は建て替えられ、現在は「お宿やました」となっています。湯涌温泉を舞台の一つとして夢二は「秘薬紫雪」という小説も書きました。
湯涌町には「金沢湯涌夢二館」があり、旅、女性、信仰心という三つのテーマから、遺品や作品を通して夢二を紹介。湯涌温泉と夢二との関わりが感じられるスポットとなっています。
東洋一と謳われた湯涌温泉「白雲楼ホテル」
湯涌温泉にある玉泉湖。実は現在解体されて無くなってしまった「白雲楼ホテル」の一部として作られた人工湖でした。
「白雲楼ホテル」は1932年(昭和7年)にできたリゾートホテルで、能登出身で国務大臣まで務めた桜井兵五郎が開業しました。
フランク・ロイド・ライト氏による欧日の様式を巧みに織り交ぜた外観。東洋一の豪華さといわれ、建物の他にゴルフ場、プール、ダンスホールなどの施設も。
1968年(昭和43年)には現・上皇陛下が皇太子時代に来館したこともあったそうです。1997年(平成9年)6月に登録有形文化財に登録。
しかし、1998年(平成10年)に経営難により倒産。営業を停止した後、建物の老朽化が進み、2006年(平成18年)に解体されてしまいました。
「白雲楼ホテル」閉業とともに、湯涌温泉は大きな転換期を迎えることになります。
地元から愛され続けてきた湯涌温泉、しかし・・・
湯涌温泉は長く地元から愛されてきた温泉地。宿泊客の約8割は金沢市もしくはその近郊のお客様だったそうです。
かつては会社の慰安会や忘年会、新年会、町内会などでもよく利用されてきました。
しかし、景気後退とともに法人による利用が減少。また、地域コミュニティの縮小化や常連のお客様たちの高齢化が進み、宿泊客が減ってしまいました。
そんな中、「湯涌温泉を舞台にアニメ作品をつくりたい」というオファーが舞い込みます。富山県南砺市にあるアニメーション制作会社・株式会社P.A. Works(ピーエーワークス)が10周年を記念して、温泉旅館で働く女子高生たちの日常と成長を描いた物語の舞台として湯涌温泉を、という問合せでした。
「アニメファンが温泉地にやってくるのはいいけれど、昔ながらの落ち着いた雰囲気が損なわれるのでは?」
地元では賛否両論あったそうで、引き受けるかどうか迷ったと山下さん。しかし、このままでは温泉地はさびれてしまうのではないかという懸念もあり、アニメの舞台として制作に協力することを決意しました。
2011年4月~9月までTOKYO MXや千葉テレビ、テレビ東京などで放送され、2013年に劇場版も公開されたアニメ「花咲くいろは」の効果で、湯涌温泉は金沢市以外でも注目を集める存在に。
実際に湯涌温泉には、聖地巡礼として全国からたくさんのアニメファンなどが訪れるようになります。しかし、懸念していたようなことにはならず、むしろ、若い世代と地元の方との交流が生まれ、温泉街に活気が戻ってきていることを実感しているそうです。
アニメ「花咲くいろは」から生まれたお祭り「湯涌ぼんぼり祭り」
「花咲くいろは」の中で、主人公たちが働く温泉街「湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉」では、毎年神無月に出雲に向かう神様が道に迷わないよう「ぼんぼり」で道を照らし、神様がそのお礼として皆の「のぞみ」を出雲の八百万の神に届けるというエピソードがあります。
作中で描かれた「ぼんぼり祭り」を湯涌温泉では2011年から再現。ちょうど2008年に起きたゲリラ豪雨による「浅野川水害」からの復興3周年を記念し、湯涌地区に根付いたお祭りとして製作委員会や行政、地域の皆様の協力を得ながら開催をスタートさせました。
「浅野川水害」の時は、湯涌温泉街全体が水没し、山下さんの胸ぐらいまで水に浸かったとのこと。各温泉旅館は懸命な復旧作業に取り組み、お客様を呼び戻したいと考えていました。
その起爆剤となるイベントを、と思っていたところでの「ぼんぼり祭り」だったそうです。
「湯涌ぼんぼり祭り」では毎年10月(神無月)に湯涌稲荷神社の「小さな神様」が出雲に向かう様子として再現。温泉街をぼんぼりで照らし、湯涌稲荷神社で授与する「のぞみ札」を「ぼんぼり」に下げ、最後は玉泉湖でお焚き上げをすることで、人々の思いを出雲の八百万の神々の元に届けています。
アニメのファンから聖地巡礼の地として一躍有名になった湯涌温泉で、作品中で描かれたお祭りを実際に体験できるとあって大人気に。2016年には15,000人を超える来場者でにぎわうことになりました。
2020年・2021年は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止。2022年からは大幅な入場制限(1,350名限定)を実施し、2023年は規制を少し緩和して3,000名限定で開催されました。
2024年は7月14日(日)にぼんぼり点灯式を開催。「湯涌ぼんぼり祭り」の本祭は10月19日(土)開催を予定しています。
本祭への参加は条件がありますので、興味がある方はこちらを確認してください。
四季折々の美しさ、金沢の味覚が楽しめる「湯涌温泉」
湯涌温泉は金沢市からもアクセスが良く、また泉質は弱アルカリ性(ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉)とお湯の良さでも定評があります。源泉が湧く総湯「白鷺の湯」は日帰り入浴も可能。
「なめらかさと温もりが肌を包み込む」といわれる名湯をゆっくりと堪能できます。
温泉街には8軒の宿があり、新鮮な海の幸・山の幸を使った四季折々の加賀料理を提供。12月には金沢冬の味覚(カニ・寒ブリなど)をたっぷり楽しめますよ。
いわゆる“歓楽街”といわれる温泉地特有の賑わいはありませんが、静かで自然豊かな里山の雰囲気が訪れる人を癒してくれます。
湯涌温泉では2024年1月1日に起きた能登半島地震により、被害を受けた被災者の方々の二次避難場所として各旅館が受入を実施しました。また、チャリティグッズの販売やチャリティイベントなども積極的に行っています。
今後も継続的な支援活動を実施していくとのことなので、その応援も込めてぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。小さな宿ならではのおもてなしを楽しめますよ。
■取材協力
湯涌温泉観光協会/目黒区 文化・交流課
↓かなざわ講座が行われた「目黒区総合庁舎」の場所はこちらになります。