【目黒区】ホテル雅叙園東京「時を旅する福ねこat百段階段」に行ってきました。愛らしさとちょっぴり恐ろしさも、猫らしい表情に癒されるひと時
創業者・細川力蔵さんが自宅を改築して作った純日本式料亭「芝浦雅叙園」をルーツとする「ホテル雅叙園東京」。1931年(昭和6年)にどなたでも気軽に利用できるよう現在の場所につくられたのが「目黒雅叙園」でした。
2017年にリブランドして誕生した「ホテル雅叙園東京」には、敷地内に当時の面影を残す東京都指定有形文化財「百段階段」(旧目黒雅叙園3号館)があります。“昭和の竜宮城”とも呼ばれた、豪華絢爛な装飾や美術品の数々。
普段は非公開であるこの文化財「百段階段」に入れるのは企画展の時期のみです。今回は2025年3月20日(木・祝)から6月15日(日)まで開催されている「時を旅する福ねこ at 百段階段~平安、江戸、大正、昭和、そして現代へ~」におじゃましてきました。

東京都指定有形文化財「百段階段」
様々な表情としぐさ、態度で飼い主を翻弄する猫たちに囲まれる至福のひと時。展示会の様子をダイジェストにご紹介していきましょう。
芸術家たちのミューズとなってきた猫の魅力を7つの部屋で堪能、「時を旅する福ねこ at 百段階段」

河村目呂二(めろじ)作「大縁福猫」
今回の展示会では、最も古い飼い猫記録が残る平安時代から、江戸時代の浮世絵コレクション、大正・昭和に活躍した日本初の猫コレクター、そして猫に魅了された現代の芸術家まで、文化財「百段階段」に大集結です。
今回の見どころは以下の3点。
- 多彩な世界観で文化財と猫作品がコラボレーション
- 貴重な歴史資料と日本を代表する猫の作品が集結
- バラエティ豊かな猫グッズがミュージアムショップに登場
浮世絵は後期展示のものを拝見しました。
「十畝の間」では「日本一の愛猫家」「ねこの先生」と親しまれた河村目呂二作品
河村目呂二(めろじ)は1886年(明治19年)生まれ。大正から昭和にかけて活躍した芸術家・文筆家です。生まれついての猫好きで「日本一の愛猫家」「ねこの先生」とも。
広告デザインなどを手がける一方で、工房「あいそめ屋」を設立し、大正風俗を表現した「目呂二人形」を発表。1924年(大正13年)に本邦初のキャラクター招き猫「Money-key猫」を皮切りに、さまざまな創作招き猫や猫玩具などを制作しました。

趣味の猫百種
“目呂二(めろじ)”というペンネームは、好きな音楽のメロディと敬愛する同時代の画家・竹久夢二から付けたといわれているそうです。
こよなく愛した猫作品以外にも、目呂二の多彩な人脈やグラフィックデザイナーとしてのセンス・才能を感じる作品、大正時代の若い娘たちを活き活きと表現した目呂二人形など、大正ロマンあふれる世界観にひたれました。
個人的にツボってしまったのが「猫あんか」という作品。香箱座りをする実物大の猫は、背中から炭を入れて暖まれるようになっています。
文豪・大佛次郎が身近に置いて愛用した品だそうで、実物は鎌倉にある「大佛次郎記念館」に所蔵されています。展示品は実物をもとに復刻したもの。
猫を抱く暖かさをそのまま暖房器具にするという発想が素敵でした。しかも香箱座り。
「漁樵の間」で繰り広げられるのは「小澤康磨×平安文学のねこ」
平安時代、京の都に花開いたきらびやかな貴族文化。猫は外国から来た貴重な動物で、貴族の屋敷で大切に飼われていました。
NHK大河ドラマ「光る君へ」で、道長の正妻・源倫子(黒木華さん)が猫をかわいがるシーンが印象的でしたね。

和歌の世界で「手飼いの虎」と呼ばれる猫たち
こちらのお部屋では造形作家・小澤康磨さんのリアルで表情豊かな猫たちと、平安文学とのコラボレーションが楽しめました。

藤原実資日記「小右記」より
日本最初の猫日記といわれる宇多天皇の「寛平御記」では、真っ黒な飼い猫の様子を描写。毎朝手づから乳粥を与えてかわいがっていたそうです。

宇多天皇「寛平御記」より
文化財「百段階段」の中でもひときわ煌びやかな「漁樵の間」の装飾と世界観がマッチして見ごたえがあります。

紫式部「源氏物語」より
そして紫式部の「源氏物語」からは、偶然猫が御簾を巻き上げてしまい、光源氏の正妻・女三の宮の姿を貴公子・柏木が見てしまうというシーンから。

菅原考標女「更級日記」より
この他、藤原実資日記「小右記」や、清少納言「枕草子」、菅原考標女「更級日記」、和歌の世界の猫など、さまざまな文学作品にヒントを得た猫たちが今にも動き出しそうな表情を見せます。
最後に愛らしいだけではない猫の姿を現した「今昔物語」の世界へ。
前世はネズミと噂されるほど猫が苦手な地方豪族「猫怖じの大夫」。税金を納めない大夫を懲らしめようと、国司が狭い小部屋に大きな猫6匹と一緒に閉じ込めたというワンシーンを表現しています。
イカ耳になっている猫から「シャーシャー」いう声が聞こえてきそうでした。
「草丘の間」では「その時 猫は見た!」をテーマに22名のアーティストたちが競演
何気ない日常で「猫」たちは私たちの行動をしっかり観察しているのでは?ということをテーマに、「草丘の間」ではさまざまな目撃者としての猫を表現した展示を行っています。
「猫を抱く姫」は「源氏物語」若菜上に登場する、源氏に嫁いだばかりの女三の宮をモチーフにしたもの。

猫を抱く姫
数年後に猫が引き起こす「その時!」を知らず、2匹の唐猫をかわいがる無邪気な姿を作品にしました。
物陰からじっとこちらを見る猫。
何やら視線を感じたその先には…猫。というように、いろいろな猫たちの作品がいっぱい展示されています。お気に入りの作品をぜひ見つけてみてはいかがでしょうか。
「静水の間」では「ナカムラジン×時を旅する吉祥ねこ」
控えの間と奥の間がある「静水の間」。こちらでは現代美術家・ナカムラジンさんが、日本の伝統的な吉祥アイコンと現代のコミックセンスを絶妙にミックスした作品が展示されています。
古くて、新しい。新しくて、古い。いくつもの時代を自由自在に行き来する、猫とアートの関係は私たちの想像力を刺激してくれます。
控えの間は部屋の名前になっている橋本清水の作品、奥の間は池上秀畝の作品です。コミックアートという手法と、古き良き時代の日本画や意匠と不思議なくらい世界観がマッチしていて、楽しめました。
「星光の間」では「粋、洒落、人情×江戸の浮世絵ねこ」
貴族の占有物だった貴重な猫ですが、江戸時代になると庶民にとっても身近な存在になります。商家や長屋などで飼われ、愛玩動物として人々に癒しを与える一方、不思議な力を持つとも信じられていました。
「招き猫」などは、猫の魔力を役立てた縁起物であり、江戸末期に登場しています。
現在、NHK大河ドラマで放送されている「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」でも登場する歌川国芳は猫をこよなく愛し、擬人化した猫を描いたり、猫が身を寄せ合う文字を作るといった斬新な表現を用いたそうです。
「星光の間」では、浮世絵と江戸縮緬古裂の衣裳人形(石渡いくよさん)の粋なコラボレーションで、江戸時代の空気感を活き活きと表現しています。
※一部、浮世絵作品は作品保護のため、前期・後期で展示入れ替えがおこなわれました。
「清方の間」では「昭和レトロ世界×昭和懐かしねこ」
このところ、昭和レトロが大人気。不自由だったけど活気にあふれ、温かな幸せにあふれていた時代の空気感が再評価されています。
「清方の間」では、昭和レトロ世界を「昭和ほのぼの商店街(有田ひろみさん、ちゃぼさん)」「キネマメラノ座(目羅健嗣さん)」「猫のマッチラベル(加藤豊コレクション)」で展開。

映画「猫武者」撮影に使われた兜
「キネマメラノ座」には楽しい顔はめパネル(怪傑猫頭巾)」など、パンチの効いた作品がずらりと並んでいます。
そして、今ではすっかり見かけなくなった「マッチ」。
昭和の時代では喫茶店やスナックなどで、そのお店の名前や電話番号が入ったマッチを配っていたりしていました。カラフルなデザインの箱に入ったマッチ棒の姿も愛らしかった。
さまざまなマッチ箱の中から、猫が描かれているものを集めて展示しています。
「頂上の間」は宇宙、はたまた異空間!?「よねやまりゅう×未来へ旅立つねこ」
いよいよ最後のお部屋です。ここでは商業美術造形の傍ら異形の作品制作に取り組んでいる造形作家・人形師であるよねやまりゅうさんの独特な世界観が広がっています。
21世紀も1/4が過ぎ、地球規模南困難な課題に直面しているこの世界で、私たちの未来はどうなっていくのでしょうか。
そんな時も猫は変わらず人間のそばにいる。過去を振り返らず、今日この瞬間を生きて、明日を恐れない。
よねやまりゅうさんが創る猫は野生の力を残し、人間に媚びることなく凛と立っています。
猫の持つ気高さやクールなまなざし、魔性を感じさせる作品となっていました。
「時を旅する福ねこ at 百段階段」は6月15日(日)までの開催。ぜひ、足を運んでみてくださいね。
【開催会場】ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
詳しくはこちら≫
7月4日(金)から始まる「和のあかり×百段階段2025~百鬼繚乱~」も見逃せない!
そして7月4日(金)~9月23日(火・祝)までは、毎年恒例の夏の企画展「和のあかり×百段階段2025~百鬼繚乱~」が予定されています。2025年で10回目を迎えるという今年は、「鬼」をテーマに、部屋ごとにさまざまな表現が楽しめるとのこと。
光、音、匂いなど五感を刺激する展示が魅力で、毎年この企画だけは足を運ぶという方も多いのではないでしょうか。
ホテル雅叙園東京の休館が予定されているため、しばらく文化財「百段階段」に入れるチャンスがなさそうです。どうぞ早めに予定を入れて、足を運んでおきましょう。
※会期中無休
※8月16日(土)は17時まで(最終入館16時30分)
【開催会場】ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
詳しくはこちら≫
■取材協力
↓「ホテル雅叙園東京」がある場所はこちらになります