【目黒区】秋はホテル雅叙園東京でアートなお月見。「月百姿×百段階段 ~五感で愉しむ月めぐり~」が12月1日(日)まで開催中

月百姿×百段階段
~五感で愉しむ月めぐり~

日本美のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」では、館内にある東京都指定有形文化財「百段階段」にて秋の展示会「月百姿(つきのひゃくし)×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」を2024年10月5日(土)にスタート。

幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師・月岡芳年(つきおかよしとし)が、月にちなんださまざまな物語を描いたシリーズ「月百姿」をご紹介するとともに、月をモチーフとした現代アート作品・建物とのコラボレーションを存分に楽しめる内容となっています。

今回の企画展に先駆けて内覧会に参加してきましたので、見どころをダイジェストでご紹介していきましょう。

天才浮世絵師・月岡芳年とは?「血みどろ絵」「幽霊画」で有名

浮世絵師・月岡芳年とは

「十畝の間」の浮世絵展示

月岡芳年は歌川国芳の高弟として高い評価を受けてきた浮世絵師。歌川国芳の自由な発想を継承しながらも、西洋画の写実性を盛り込んだ、新しい浮世絵画を次々と生み出しました。

月岡芳年の作品の中でも残酷な殺戮シーンや死骸を描いた「血みどろ絵(無残絵)」や妖怪を描いた「和漢百物語」「新型三十六怪撰」などが有名ですが、月にちなんだ物語を題材とする「月百姿」というシリーズも人気です。

月岡芳年晩年の代表作といわれる「月百姿」は、1885年(明治18年)~1891年(明治24年)にかけて発表されたもので、和漢の物語や詩歌、謡曲の中の月にまつわる場面を題材に描いた作品。

月そのものを描いた作品はもちろん、水面に揺らぐ月、画面の中に直接描かずに月を描写するなど、月岡芳年ならではの趣向が凝らされており、迫力ある大胆な構図と繊細な表現で観るものを圧倒します。

清方の間の浮世絵展示

「清方の間」の浮世絵展示

今回の展示会では「十畝の間」「清方の間」でそれぞれ10点ずつ、合計20点の「月百姿」を楽しむことができます。また、前期・後期で5作品ずつ本物の浮世絵と和紙に転写したものの入れ替え展示となりますので、浮世絵ならではの彫りや刷りを間近で楽しみたい方は、ぜひ2回足を運んでくださいね。

「十畝の間(前期の展示)」

月岡芳年の浮世絵を前期・後期で入れ替え展示

文化財「百段階段」の最初のお部屋「十畝の間」、前期では「月百姿」より「朝野川晴雪月 孝女ちか子「月宮迎 竹とり」「桜さくすみだの川にこぐふねもくれて関屋に月をこそ見れ 水木辰の助」など5作品を本物の浮世絵として展示。

和紙に転写し、下から明かりを当てて展示

後期で本物を展示する「石山月」「しらじらとしらけたる夜の月かけに 雪かきわけて梅の花折る 公任」「やすらはで寝なましものを 小夜ふけて かたぶく迄の月を見しかな」などの5作品は、和紙に転写し、下から明かりを照らして展示します。

明かりを照らして鮮やかに浮かびあがる浮世絵の演出も素晴らしく、月岡芳年作品の魅力がドラマティックに感じられました。

「清方の間(前期の展示)」

清方の間の前期展示

文化財「百段階段」の6つ目のお部屋となる「清方の間」は、美人画の大家、鏑木清方が四季草花、欄間の四季風俗美人画を手がけた落ち着いたたたずまいのお部屋。

前期では「月百姿」より「名月や畳の上に松の影 其角」「北山月 豊原統秋」「舵楼の月 平清経」「原野月 保昌」「法輪寺の月横笛」の5作品を展示。

清方の間に展示される浮世絵

後期で本物を展示する5作品は「しばいまちの暁月」「月明林下美人来」「金時山の月」「から衣うつ音きけば月きよみまだねぬ人を空にしるかな 経信」「嫦娥奔月」となっています。

鏑木清方は、月岡芳年門下である水野年方に入門。芳年が描いた幽霊画について「月岡芳年師匠は、よく不思議な事に出会ったことのある人でした」と語っていたそうです。

芳年の浮世絵にはその実体験も反映されているかもしれませんね。

「漁樵の間」では「石山月」をモチーフに、水と月を感じさせる空間に

石山月をモチーフにした展示「漁樵の間」

「石山月」という作品は「源氏物語・起筆伝説」を描いたもの。琵琶湖南部にある石山寺で、中秋の名月を眺めるともなく見遣りながら物語の構想を練る紫式部が描かれています。

源氏物語の構想を練る紫式部を描いたもの

NHK大河ドラマ「光る君へ」でも、紫式部がたびたび訪れていた石山寺。琵琶湖の湖面に移った十五夜の月を眺めていた時、都から須磨の地へ流された貴公子が月を見て都を恋しく思う場面が浮かび、「今宵は十五夜なりけり」の一節を書きだしたと伝わります。

単衣の肩を出し、小桂を羽織り、文机に頬杖をついた姿で表現されている浮世絵。その絵をモチーフに、高山しげこさんが手がけた大きな月(和紙照明)と天然素材を自然界にある色で染め上げた「染司よしおか」の「澪標」「光源氏 花宴」がなんとも美しく幻想的な世界観を演出しています。

高山しげこさんの「月」

高山しげこさんがてがけた月

高山しげこさんは紙すきの技法を応用しつつ、素材の質感を活かした灯りつくりを行っている作家さん。今夏に開催された「和のあかり×百段階段2024~妖美なおとぎばなし~」でも、美しい月の照明を手がけていらっしゃいました。

【目黒区】物語を五感で味わう夏。ホテル雅叙園東京「和のあかり×百段階段2024~妖美なおとぎばなし~」

今回はそれよりもさらに大きく、直径120㎝の月灯りにチャレンジ(夏の展示会では直径90㎝だった)したそうです。規格外の枠を使い、落水という技法を使い、手すきで仕上げた和紙を作成。

高山さんは漉きあがった和紙にさらにシャワーをかけて、ぼこぼことした表情を付けることで月の表情を引き出したとおっしゃっていました。

直径120㎝というサイズが紙の筒(枠)で支えられる限界ということで、この大きさになりました。

染司よしおかの「澪標」「光源氏 花宴」

染司よしおかの染め物

染司よしおかは、京都にある染屋で、絹・麻・木綿などの天然素材を、紫草の根、紅花の花びら、茜の根、刈安の葉と茎、団栗の実など、すべて自然界に存在するもので染めています。

源氏物語で表現された衣裳の再現や復元などを通して、王朝の色彩を現代に蘇らせた作品を生み出してきました。「澪標(みおつくし)」は官位により決められていた衣服の色を再現したものです。

「光源氏 花宴」は下を紅花で赤く染め、その上にやや厚めに織った白い花の丸紋の生絹を重ね、下の紅色を投光させて淡い桜の花を連想させるように仕立てたもの。

下襲(したがさね)は葡萄色(えびいろ)とあるので紫紺で染め、その後に茜をわずかにかけて赤味を足しているとのこと。なんとも柔らかく雅な色の表現に心を奪われました。

水をテーマにしたガラス作品も展示

硝子作品の展示

ゆきあかりさんの作品「水音」

この他、現代作家さんたちが手がけたガラス作品も展示されていました。上写真はゆきあかりさんの「水音」という作品。

ガラスでできているとは思えないほどの繊細な表現です。

この他、積層ガラスという手法を使って満月の夜に水面に映る月の光とさざ波を表現した小島有賀子さんの「Layers of Light -Moon- #7」、ガラスの中に綴られた源氏物語「紫之にき/むらさきのゆかり」玉田恭子さんの作品も展示されています。

「草丘の間」では「芒(すすき)」と「月」をモチーフにプロジェクションマッピングで魅せます

草丘の間はプロジェクションマッピング

「月百姿」には芒がモチーフとして描かれた作品が多く残されています。「草丘の間」では約2,000本の芒と直径2mある巨大な月を展示。

プロジェクションマッピングを使い、色を変え、表情を変えていく「月百姿」のシーンをイメージしたインスタレーションを展開します。

風で芒をなびかせる演出も素敵。まるで浮世絵のワンシーンのような写真撮影ができるフォトスポットとにもなっています。

「静水の間」「星光の間」では現代作家が描く「月百姿」の世界観を展開

月岡芳年が描き出した「月百姿」にヒントを得て、現代作家たちが月をモチーフにした作品の数々。それぞれをダイジェストでご紹介していきましょう。

「静水の間(前室)」では岩谷晃太さんの「月と稲妻」

岩谷晃太さんの「月と稲妻」

文化財建築に溶け込む月と稲妻の神秘を描いた岩谷晃太(いわたにこうた)さんの日本画。古来から月や雷は私たち日本人の生活や信仰と深い関わりがありました。

漆黒の岩黒を背景に稲妻や月を描いた作品を数多く手掛けていらっしゃいます。一瞬の煌めきを描き、光の余韻を表現した作品はどこか神秘的で深い余韻を残します。

「静水の間(前室)」で「津軽びいどろ」他、月をモチーフにした作品展示

津軽びーどろ

「津軽びいどろ 爽華 金彩 盃 月明」「津軽盃12ヶ月コレクション 9月 月見」

また「静水の間(全室)」ではアデリア株式会社が手がけた「津軽びいどろ 爽華 金彩 盃 月明」「津軽盃12ヶ月コレクション 9月 月見」を展示。美しい月夜を思わせるなんとも言えない色合いが楽しめます。

そして、樹脂加工のプロフェッショナル集団である株式会社益基樹脂を母体に、デザイナーと職人の技術で新しい感覚の製品を生み出している「toumei」。

toumei「箔コーバル」

toumei「箔コーバル」

マットな和紙調アクリルの表面に、月齢を箔押しして表現した「箔コーバル」を展示していました。小さなお皿に月が描く軌道の楕円をドラマチックに見せています。

「静水の間(奥室)」では「月明林下美人来」の世界を立体的に表現

浮世絵に描かれている漢詩の世界を立体的に再現

「月明林下美人来(つきあからかにしてりんかびじんきたる)」は月岡芳年「月百姿」の名作の一つ。明代初期の詩人、高啓(青邱)の漢詩「梅花」のうちの一節から採られています。

この詩に登場する美人の名は「羅浮仙(らふせん)」といい、よく日本画の主題とされる梅の精です。

女性は「羅浮仙(らふせん)」という梅の精

中国にある梅の名所・羅浮山を訪れた男・超師雄が、美しい女性に出会い、酒席へと案内されます。その後、眠ってしまい、目が覚めると女性の姿はなく、傍らに大きな梅の木があったという中国の故事に由来。

月明林下美人来の世界を3次元で

超師雄が過ごした夢のような世界を立体的に再現したエリアとなっています。

「星光の間」では伊藤咲穂さんの「夜の礼拝-WORSHIP OF THE NIGHT-

星光の間は伊藤咲穂さんの作品を展示

伊藤咲穂(さくほ)さんは島根県出身のアーティスト。和紙工房での修行を活かし、楮(こうぞ)を溶く段階で岩絵具や金属、土、砂、顔料などを一緒に混ぜて漉き込み、独自の和紙として錆和紙や和紙作品を創り上げています。

独自の手法で描き出すアート作品

今回の展示では月のエネルギーと私たちが呼吸し合い融合している姿や、水の御蔵に着想を得た水の衝撃波による画面構成、月から生まれる水により芽吹いた花などを独自の和紙手法で表現。

静けさの中にも見る人の魂を揺さぶるような躍動感を感じさせる作品でした。

「頂上の間」では高橋工房による「月百姿」復刻木版画を展示

髙橋工房 復刻木版画

最後の「頂上の間」では浮世絵版画工房「髙橋工房」による、「月百姿」復刻木版画を展示。安政年間(1855~1860年)創業の高橋工房は、江戸木版画の摺師の家系で、四代目から版元の暖簾も兼ねてきました。

江戸木版画は技の保存と継承を目的に文化庁から選定保存技術保存団体(修復部門)の認定も受けています。しかしながら、多くの江戸木版画は版木自体がすでに消失。

「東京の宝」の魅力を後世に伝えていくためにも、「江戸東京きらりプロジェクト」事業の一環として「月百姿」の古版木を修復し、世界へ発表しました。

今回、「頂上の間」で展示されている月岡芳年の浮世絵も、伝統技術を駆使して蘇らせたものです。

浮世絵が描かれ、飾られた当時の環境に近い状態で楽しめる文化財「百段階段」

浮世絵が描かれた当時を再現する「百段階段」

今回の「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」は、普段の企画展に比べるとかなりそぎ落としたシンプルな演出になっていました。

いつもは引き立て役に徹しているかのように感じられる文化財「百段階段」ですが、今回は企画展の魅力を高めてくれる重要なキーマンとして確かな存在感を放っています。

何度も足を運んできた場所ですが、月岡芳年の浮世絵の世界や現代アーティストたちが描く月の世界と呼応し、溶けあい、高め合い、まるで一つの作品のように輝いて感じられたのが印象的です。

各お部屋に描かれている天井絵や欄間などの素晴らしさも改めて発見できる極上の企画展「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」。
皆さんもぜひお見逃しなきよう、足をお運びくださいね。

▼「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」開催概要

【開催期間】2024年10月5日(土)~12月1日(日)、11時~18時(最終入館17時30分)
※11月5日(火)は浮世絵の前期・後期作品入れ替えのため休館
【開催会場】ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
詳しくはこちら≫

■取材協力
ホテル雅叙園東京

↓「ホテル雅叙園東京」がある場所はこちらになります

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