【目黒区】圧巻の展示に息を飲む、「千年雛めぐり~平安から現代へ受け継ぐ想い~百段雛まつり2024」が3月10日(日)までホテル雅叙園東京で開催中
ホテル雅叙園東京・東京都指定有形文化財「百段階段」でなんと4年ぶりとなる「百段雛まつり」が開催中です。「百段雛まつり」は日本各地の雛が集い、早春を彩る人気企画として第1回目の2010年から2020年まで11回行われ、63万人以上を動員してきた大人気企画です。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2020年に早期閉会。全国各地からお雛様をお借りしてくるという企画のため、準備期間に2年以上かかるとのことで、再開までなんと4年の歳月を要してしまったそうです。
待ちに待った「百段雛まつり」が2024年1月20日(土)についに開幕、ということでさっそく内覧会に足を運んできました。
平安時代を起源とするお雛様に思いをはせて、テーマは「千年雛めぐり~平安から現代へ受け継ぐ想い~ 百段雛まつり2024」
展示会場である文化財「百段階段」に向かうエレベーターを降りると、真っ先に目に飛び込んでくるのは「東玉(とうぎょく)」が源氏物語をモチーフに制作した現代雛(親王飾り)です。
そういえば、2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」は「源氏物語」を書いた紫式部を主人公にした作品。平安時代の豪華絢爛な衣装なども話題となっていますね。
飾り方は宮崎県綾町で行われている「雛山」のスタイル。綾町に江戸時代から伝わる伝統の風習で、女の子が生まれると親戚や近所の人たちが木や花木を持ち寄り、家の奥座敷に山の神が住む風景を再現したのが始まりといわれています。
山の神は女性であり、山の神が住むのにふさわしいものでお祝いしてあげたいという思いから始まったそうで、雄大な自然のように清く優しく大きく育ってほしいという願いが込められているそうですよ(参照元:綾町ホームページより)。
「十畝の間」では地域に息づく素朴なお雛様や時代雛などを展示
荒木十畝による四季の花鳥画が描かれた「十畝の間」。こちらではお雛様の歴史や地域ごとの特色、違いなどを楽しむことができる展示です。
お雛様の原型は平安時代にあった“流し雛”といわれています。「雛流し」ともいわれ、雛まつりの原点ともいわれる行事です(引用元:東玉ホームページより)。
「源氏物語」の中にもお祓いをした人の形(かたしろ)を舟に乗せて、須磨の海に流したと書かれているとか。その時、川に流していた人形が立ち姿でした。
また、宮中の女の子たちが行った「ひいな遊び」というままごとが原型という説も。お人形に着物を着せる、調度品を揃えて飾るなどして遊ぶ様子を「枕草子」などでも紹介されています。
当初は紙を使った簡素な作りだった「立雛」。現代では木の胴で腕を取り付け、顔を桐塑(とうそ)で作り、胡粉(ごふん)を塗り、衣裳の生地を型紙に合わせて裁断するなど、細かな工程を経て作られています。
衣裳も豪華で贅を尽くしたものへと変化。コンパクトに飾れる上、縦に大きく豪華に見えることから最近では注目を集めているそうですよ。
この他、こちらのお部屋での展示を時代を追ってダイジェストでご紹介します。
京で生まれた「享保雛」
江戸時代の享保年間頃から流行し始めた雛人形で京で誕生。その前につくられていた雛人形と比べ、きらびやかな細工物の冠を付けるようになったのが大きな変化です。
面長な顔に切れ長な目、能面に似た静かな表情をしているのが特長。
江戸の職人たちの意地が創り上げた「古今雛」
京生まれのお雛様。寛政年間になると江戸文化も爛熟し、職人たちが意地を見せるようになりました。
古今雛は現在の東京日本橋室町にあった十軒店の人形師・原舟月が創作したもの。写実的なお顔だちは現在のお雛様の基礎を築いたといわれています。
「古今」とは、古くも今も随一という気概が込められているそうですよ。
江戸風と京阪風
京阪風のお雛様はふっくらとした公家を思わせる描き目で趣がある表現。袖から両手をのぞかせ、檜扇を広げた姿で座っているのが特徴です。
江戸風のお雛様は両目にガラス玉や水晶玉をはめ込み、写実的で行き来した表情が特徴なのだとか。袂を膝元におさめ、袖の中に手を隠した姿で作られています。
贅沢禁止令の中で生まれた「芥子雛」
たびたび幕府から発令されてきた贅沢禁止令。豪華絢爛に進化し続ける雛人形もその対象に。
しかし、このことにより、人形師が趣向を凝らした小さな雛人形を生み出します。「芥子雛」は芥子粒のように小さいという意味。
展示されているのは大正期のものです。
日本一の人形の町・岩槻を代表する老舗人形店「東玉」
1852年創業の「東玉」は、江戸嘉永年間に岩槻城主の御殿医だった初代・戸塚隆軒さんが趣味として人形づくりを始め、作品の出来栄えに感服された城主が「東王」の名を下さったそうです。
しかし、隆軒さんは畏れ多いとして「王」に点をつけた「東玉」を作号とし、その伝統技術と心を現在まで守り引き継いでいます。今回は「東玉」が所有する貴重なお雛様コレクションが、会場の随所に飾られていました。
幸せを願い飾られた「傘福」
「傘福」とは江戸時代から山形県酒田に伝わるつるし飾りの一つ。女性たちが一針一針心を込めて子孫繁栄や無病息災、家族の幸せを願い細工物を傘に吊るし、地元の神社仏閣に奉納した風習です。
静岡県伊豆町稲取の「雛のつるし飾り」や福岡県柳川市の「さげもん」とともに日本三大つるし飾りとして知られています。
この他、過去の「百段雛まつり」を彩った以下のお雛様が飾られていました。
- 中野土人形(長野・中野)
- 三春張子(福島・三春)
- 神ひな(宮崎・青島神社)
- うすき雛(大分・臼杵)
- 吉やの雛人形(島根・出雲)
- 流し雛(鳥取・川瀬)
全国のお雛様が一堂に会し、拝見できるのはとても贅沢。各地を旅する気分が味わえました。
「百段雛まつり」にたびたび足を運ばれた方にとっては、振り返りも楽しめますね。
「漁樵の間」では圧倒的スケールの「座敷雛」の展示
文化財「百段階段」の中でもとびぬけて豪華絢爛な装飾が施されている「漁樵の間」。そのお部屋の意匠に負けない圧倒的なスケールで迫る福岡県飯塚市の「座敷雛」を展示しています。
中央には雅な葵祭の風景を表現。奥には御殿飾りを中心に優美な宮中の景色が広がっています。
飾られている人形の中にはあの光源氏も登場。物語に描かれている人間模様も表現されているのでぜひチェックしてみましょう。
石炭産業の中心地として賑わった飯塚市には、筑豊の炭鉱王として名を馳せた伊藤伝右衛門の栄華を伝える「旧伊藤伝右衛門邸」があり、毎年雛まつりの時期に「座敷雛」が飾られるそうです。
今回、「漁樵の間」で使われている人形は約800体!その贅沢さ豪華さに圧倒されてしまう展示でした。
「草丘の間」では茨城県の「うしくのひなまつり」を展示
子どもたちの健やかな成長と幸せを願うイベントとして牛久市で毎年行われている「うしくのひなまつり」。つるし飾りを中心に紙粘土の創作人形・折り紙作品・細工物。陶芸作品などが展示されます。
つるし飾りの起源は諸説あるそうですが、雛人形は一部の裕福な家庭で飾る高価なものだったことから、雛壇の代わりに子どもの幸せを願う親心が込められ作られ始めたといわれています。
今回の展示は「うしくのひなまつり」に参加展示されている「花工房猪子庵」による、四季の表現・日本昔話をモチーフにしたかわいらしいお細工物が展示されていました。
「静水の間」では琵琶湖を舞台とした「清湖雛物語」の世界をジオラマ展示
「静水の間」では滋賀県東近江市在住の人形師・東之湖(とうこ)さんの作品を展示。メインである「清湖雛物語」の2体以外はすべて今回の「百段雛まつり」のためにオリジナルで制作したものだそうです。
マザーレイクである琵琶湖を中央に配し、「湖水の神」「暁霜の神・桜花の舞」「緑王の神・薫風の神・平野の舞」とジオラマ展示。滋賀県特産品である新之助上布(麻)を使用した衣裳の色味は、これまで見たことのないような美しい世界観を表現しています。
東之湖さんは20代の時に難病(自己免疫疾患)を発病し、闘病生活の中で本格的に雛人形の制作活動をスタート。
平安時代から伝わる装束衣裳の着方を基本として、裂地の柔らかさを活かした柔拵(なえぞ)えの着方と、衣裳の端々をきちんと整える強拵(こわぞ)えの着方を融合させた独自の様式美を持つひな人形を制作しています。
東之湖さんの作品は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている東近江市五個荘金堂地区・五個荘近江上人屋敷で毎年開催されている「商家に伝わるひな人形めぐり」で展示。多くのファンを魅了しています。
極小の雛道具“川内由美子コレクション”にため息がもれる「星光の間」
「星光の間」では雛道具研究家・川内由美子さんが集めた極小のひな人形と道具が飾られています。江戸職人が技の限りを尽くして生み出した極小雛道具は「その値は実に世帯を持つより貴し」、つまり、世帯を持つよりお金がかかるといわれたほどでした。
上写真の「芥子雛(けしびな)」は、人形の頭と手足が象牙製。人形と共に飾られている雛道具の数々は、江戸上野池之端にあって人気を博した七澤屋製のものです。
写真ではわかりにくいですが、本の中身や箱の中身までていねいにつくりこまれていてびっくり。
そしてさらに小さな段飾りの豆雛は、明治中期から昭和初期にかけて活躍した人形師・久保佐四郎の作、同時期に活躍した押絵師・人形師の吉田永光作、前述の七澤屋製、浅草仲見世の玩具店助六製、および作者不明の小品です。
くす玉は雲上流造花によるもの。
この他、犬筥(いぬばこ)と貝桶、豆市松人形とくす玉、雛のごちそうと食器、芥子内裏雛と雛道具がずらりと飾られていました。
「清方の間」では10名の作家による特別企画「ねこたちの雛まつり」を開催
美人画の大家・鏑木清方の手がけた「清方の間」では新企画として「ねこたちの雛まつり」を開催。10名の作家たちによるねこをモチーフとしたかわいいひな人形が飾られていました。
上写真は石渡いくよさんの作品で「楽し♥うれしや♥雛の饗宴」。古布と石粉粘土で作られた、楽しい猫の大宴会の様子を描いています。
この他、以下の作品が楽しめます。
- 墨絵作家・有田ひろみ「こねこねねこ・ひなまつり」
- ぬいぐるみ作家・ちゃぼ「ちゃぼ雛」
- 立体造形作家・櫻井魔己子「猫雛」
- アート刺繍・はんこ・イラスト・人形作家・稲田敦「稲田敦のひニャ~祭り!!」
- 創作人形作家・安藤友香「ふくふく雛」
- 友禅染絵作家・小紅「春風」
- 粘土造形作家・すみや「猫雛御膳飾り」
- 立体造形作家・細山田匡宏「猫雛壇」
- 陶芸作家・柳岡未来「春日」
エッジの効いたファンキーな作風が魅力の稲田敦さん。
階段に猫たちがいたら、そのまんま雛壇になる、という発想でつくられた細山田匡宏さんの「猫雛壇」もユニークです。
部屋のあちこちから猫がにゃーにゃ―鳴く声が聞こえてきそうな楽しい展示。こちらで飾られている作品は購入することもできますよ。
早春を彩るてまりがたくさん「頂上の間」
てまりには「まるく収まる」「縁をつくる」などの意味があるそうで、“ハレ”の日の贈り物、縁起物として使われてきたそうです。
文化財「百段階段」の最後のお部屋である「頂上の間」では、全国のてまりに加え、雛まつりをイメージした“てまりインスタレーション”を展示しています。
天井からつるされたてまりの中にハートが描かれているものがありますので、ぜひ探してみてくださいね。展示協力は「はれてまり工房」。東京・北千住にあるてまりファクトリーです。
以下、展示されているてまりとなります。
- 【佐賀】with temari balls
- 【愛媛】松山姫てまり 姫万織
- 【島根】松江和紙てまり 松江和紙てまり工房
- 【沖縄】琉球手まり 琉球手まり保存会
- 【石川】加賀てまり 加賀てまり 毬屋
- 【福島】只見の手毬(てんまり) ちよの会
- 【滋賀】びん細工手まり びん細工手まり保存会
- 【東京】はれてまり はれてまり工房
- 【大分】日田てまり 日田てまり工房
- 【山形】鶴岡御殿まり 作り手 れいか。
- 【山形】御殿まり 今村愛子 御殿まり
- 【福岡】さげもん/お雛様 柳川伝承まり・さげもん研究会
- 【秋田】本荘ごてんまり 由利本荘市観光協会
- 日本てまりの会 (尾崎千代子・尾崎敬子・高原華子・明嵜万喜子・澤田クニ・伊藤佳子・田村小夜子・黒田幸子・島崎まよ・水田真由美・新妻榮子
珍しいところでは福島県の只見の手毬。ぜんまいの綿を集めて加工してつくられているもので、作り手がいなくなり途絶えていたものを、5年前にちよの会が復活させたものだそうです。
下の写真は小さな瓶の中にどうやっててまりを入れるのか不思議。滋賀県の伝承工芸・びん細工手まりです。
この他にも見ていて楽しいてまりがたくさんありますので、ぜひ足をお運びください。
はれてまり工房では、作り手にスポットを当てたサイドストーリー企画として「全国てまり作り手展」を3月10日まで開催しているとのこと。そちらもぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
駆け足で展示会の様子をご紹介してきました。写真では伝えきれないほど、素晴らしいお雛様の数々。
文化財「百段階段」の美術品・工芸品・お部屋の意匠と美しく調和し、心を奪われるような世界観を見せてくれます。この機会をどうぞお見逃しなく。
【開催期間】2024年1月20日(土)~3月10日(日)
【開催時間】11時~18時(最終入館17時30分)
【開催場所】ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
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■取材協力
ホテル雅叙園東京
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