【目黒区】約1年ぶりに公開された東京都指定有形文化財「百段階段」。100の縁起物を探しながら、贅を尽くした建築そのものの美しさを堪能

東京都指定有形文化財「百段階段」が約1年ぶりに公開されました。
2026年10月1日(木)から2027年3月30日(火)までの期間、“ありのまま”の文化財建築を楽しむことができます。
10月1日(木)の一般公開前に取材させていただきましたので、今回の見どころをご案内しましょう。
展示物はなし、ありのままの文化財建築が持つ魅力を隅々まで堪能できます
これまで文化財「百段階段」では季節ごとにさまざまな企画展が行われ、旧・目黒雅叙園時代から受け継いだ歴史ある美術品や木造建造物、豪華絢爛な意匠の数々とともに、アート鑑賞が楽しめるスポットとして人気を博してきました。
今回の一般公開では、一切の展示物がない状態。つまり、素のままの文化財「百段階段」を楽しめるという内容です。
特に見逃せないのがかつて食事の場を華やかに彩った螺鈿の回転テーブルの「十畝の間」での特別公開。そして、文化財「百段階段」内にちりばめられている「えんぎもの」モチーフを100個紹介するというものです。
皆さんは何個、見つけられるでしょうか。
螺鈿細工に囲まれた「十畝の間」で見る螺鈿の回転テーブル

文化財「百段階段」がつなぐ一つ目のお部屋、贅沢に施された螺鈿細工と花鳥画の天井画が印象的な「十畝(じっぽ)の間」。
横山大観さんと並ぶ近代日本画壇の大家として有名な荒木十畝さんが描いた四季淡彩花鳥の天井画が特徴となっています。

格子型に組まれた格式の高い格天井(ごうてんじょう)
お部屋の見どころはこの荒木十畝さんが描いた天井画、長押や床框に施された黒漆螺鈿細工、一位の銘木を使った床柱です。
螺鈿細工は夜光貝やアワビ貝などの貝殻内側にある、虹色に輝く部分を薄く切り出し、文様の形に切って貼り、漆で塗りこめて仕上げる非常に手の込んだものです。

格縁の組手には金の金具と七宝焼きの装飾
天井画の格縁の組手には、金の金具と七宝焼きの装飾が施され、荒木十畝さんの四季淡彩花鳥画の美しさを際立たせる豪華な造り。ぜひ訪れたら、双眼鏡などでじっくり鑑賞してみてはいかがでしょうか。
そして今回こちらのお部屋で特別展示されたのが黒漆螺鈿蒔絵仕上げの回転テーブル。

螺鈿細工の回転テーブル
戦前のものを修復したもので、現存する最古の回転テーブルともいわれています(具体的な年代は不詳)。

螺鈿の回転テーブルを文化財「百段階段」内で展示を行うのは今回が初めて。
北京料理や日本料理を提供する料亭として開業した昭和初期当時は、文化財「百段階段」も宴会場として使用されていました。

十畝の間は長押・床框など各所に使用された螺鈿細工が特徴的な部屋であること、天井画の花鳥画と回転テーブルの装飾モチーフに共通点があることなどからこちらで展示されたそうです。
昭和初期の華やかな宴席や食事の雰囲気、ぜひ感じてみてはいかがでしょうか。
中国の“漁樵問答”をモチーフにした「漁樵(ぎょしょう)の間」

2つ目のお部屋は豪華絢爛な装飾が特徴の「漁樵の間」。漁樵とは、立場の違う漁師と樵(きこり)が哲学談義を繰り広げるという中国の“漁樵問答”をモチーフにしたものです。
極彩色の彫刻や純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられた彩色木彫と日本画と、室内の絢爛豪華な装飾に思わず目を奪われます。

極彩色の彫刻に圧倒される豪華絢爛なお部屋
床柱には樹齢280~300年にもなる巨大な檜が使われており、床の間に向かって左の床柱には漁師、右には樵が精巧に彫り上げられており、そのハイレベルな細工・技法に圧倒されました。

下の写真では漁師が左手に竿を持っていますが、こちらも同じ1本の檜から彫り出したもの。後からつけ足したわけではありません。

漁師は座位で、樵は立位で彫られており、この部屋で描かれているすべての絵が立位・座位というように対比した姿で描かれています。

樵は立位で彫られている
旧・目黒雅叙園の彫刻のほとんどを手掛けたといわれる盛鳳嶺(さかりほうれい)さん。漁樵問答の床柱は尾竹竹坡(おたけちくは)さんが描いた原画をもとに、盛さんが彫り上げた作品なのだそうです。

欄間も尾竹さんの作品で、五節句をモチーフにした原図を鮮やかに浮彫で仕上げています。
その下の障子は上部が複雑な曲線になっている火灯窓(かとうまど)という意匠で、神社や城郭などの建築に使われるものです。
釘などを使わず、さまざまな角度で組み込むことで模様を作り出す、組子細工といわれる日本の優れた工芸技術を間近にみることができるのも文化財「百段階段」ならではですね。

格天井にはめ込まれている絵は菊池華秋さんが描いた四季草花図をもとに浮彫にしたもの。お部屋に座った状態で鑑賞されると、当時の宴席でのお客さまへ向けたサービスの意図が感じられることでしょう。
風景画を得意とした礒部草丘さんの作品が楽しめる「草丘(そうきゅう)の間」

欄間・天井に四季草花絵、瑞雲に煙る松原の風景が描かれているこちらのお部屋。
「草丘の間」から晴天時には富士山が見えたそうで、眺めをよくするために間の仕切りをなくして1つのお部屋にしたのだそうです。

窓の桟に施されている細かな細工もお見逃しなく
仕切部分にあった夏の絵がなくなってしまったのが残念…。
お部屋の柱に仕切りをなくしてしまった痕跡が残されています。

仕切りをなくした痕跡が残されている
天井には15面の秋田杉に花鳥画が描かれており、シンプルな装飾の格縁(ごうぶち)に。絵を活かすことを優先させた意匠なのではといわれています。

この部屋のもう一つの見どころは四隅に使われている五寸角(約15㎝角)の面皮(めんかわ)柱。面皮柱とは、角は丸のまま残し、四面に木目を出したもので、主に茶室に使われるものです。

この美しい木目を出すためには少なくとも樹齢35年以上の木材を使わなければならず、さらに同じ太さ・真っすぐなものを揃えるとなると…。
大変貴重な建築意匠なので、その点もぜひ注目してみてください。
控えの間と奥の間に分かれた「静水の間」

控えの間と奥の間に分かれており、全体的にコンパクトな造りながら、格天井や床の間などのしつらえが印象に残る「静水の間」。

戦前は山川秀峰(しゅうほう)さんの絵が飾られていたことから“秀峰の間”と呼ばれていたそうですが、池上秀畝さん、小山大月さん、長嶋華涯さん、橋本静水さんが手掛けた絵が取り入れられ、いつの間にか静水の間とよばれるようになったとか。

奥の間の天井
奥の間の格天井、格縁は秋田杉を吹寄せにしています。天井絵は扇面の中に描かれており、池上秀畝さんの手による鳳凰・松など、いずれも吉祥画です。
元は神殿の天井画だったものなのだとか。

控えの間の天井画は橋本静水さん他の画家によるもの。控えの間の床框にある檜のうるみ漆塗黒ぼかしは珍しい意匠だそうです。
長押には杉材を使用していますが、節が一切ないのは非常に貴重なもの。杉を育てる過程から丹念に枝を落として節が出来ないよう育てるという大変な手間をかけるそうです。

さらに、長押と床脇の欅材とのつなぎ目も注目ポイントの1つ。
真っすぐな杉材を欅材の凹凸にぴたりと合わせるように細工してつなぎ合わせているとのこと。
職人の超絶技巧を目の当たりにしました。
京都画壇を代表する画家・板倉星光さんの手がけた絵が使われている「星光の間(せいこうのま)」

続いてご紹介するのが「星光の間」。こちらは女性美を追求した画家・板倉星光さんが手掛けた絵が、天井、欄間、襖絵に使われています。

得意とする美人画はありませんが、柔らかで明るく、すっきりとしたタッチで描かれた四季の食材、天井には四季草花図、襖には草花図が描かれています。

そしてこのお部屋の注目ポイントは、床柱・4隅の柱、長押まですべて京都・北山杉の天然絞り丸太という珍しい建材で構成されていること。
北山杉は室町時代頃からつくり始められたといわれ、茶室や数寄屋造りの建築用材に使われてきた歴史があります。

また、手作業で仕上げたという障子の美しい組子にもぜひ注目を。日本の伝統技術、その芸術性の高さに圧倒されること間違いなしです。
近代美人画の巨匠である鏑木(かぶらき)清方さんが手がけた「清方の間」

目黒を愛した鏑木(かぶらき)清方さんが手掛けた四季草花、四季風俗美人画が飾られているお部屋。鏑木さんは清らかで優美な女性画やいきいきとした庶民の生活を数多く描いた画家として知られており、1954年(昭和29年)には文化勲章を受章しています。
茶室風にしつらえられた2間続きで、奥の間の床柱は、径一尺五寸の北山杉の天然総絞丸太。これだけの逸材は市場に出回ることは大変稀なことなのだそう。

廻り廊下の北山丸太を扱った化粧軒、障子建具、組子など、どれを取り上げても手の込んだ細心の造りとなっています。
天井は網代天井と呼ばれているもので、神代杉と秋田杉を薄くスライスして網目状(市松模様)に編んで仕上げたもの。ここにはめ込んだ扇面形杉柾板に清方さんの四季草花が描かれており、さらに見ごたえのある作品となっています。
欄間には繊細なタッチで描かれた美人画が。目黒の名所を紹介した絵もあるので、そちらもぜひ探してみましょう。

手前にある控えの間
手前にある控えの間には、床柱や落掛、水屋の羽目板に南米材のパープルハートという珍しい材が使われています。また三段の棚板はゴンサロ・アルベス、天袋・地袋・前地板はゼブラ・ウッドといずれも南米産。
館内にこのように南米の材木が使われている理由は、昭和初期頃に南米から綿花を輸入する際、船のバランスをとるために現地の木材が一緒に積まれてきたことに関係しているそうです。

現在これだけの逸材を手に入れることは不可能ともいわれており、床柱1本で家一軒がかえるだけの値打ちがあるとか!
希少な銘木の数々にもぜひ注目して、鑑賞してみてはいかがでしょうか。
「えんぎもの」モチーフを100個紹介する「頂上の間」

文化財「百段階段」の最上階にあるのが「頂上の間」。天井画は松岡映丘(まつおかえいきゅう)門下の作品です。
ちなみに松岡映丘さんは民俗学者として有名な柳田国男さんの弟。
西村五雲さんが欄間に絵を描く予定でしたが、亡くなってしまったために未完となってしまい、長らく倉庫などに使われてきました。
2009年に旧・目黒雅叙園創業80周年を迎えるにあたり、公開されることになったというわけです。
他の部屋に比べるとさっぱりとした印象に感じますが、格天井や本間の床柱に樹齢150年以上の柿の木にしか出ない文様の「黒柿」の銘木を使用するなど、見どころはたくさんあります。

こちらでは、文化財「百段階段」を彩る絵画や建築意匠に使われている、長寿や健康、富貴、良縁といったおめでたい意味が込められた吉祥デザインを100個紹介中。
果たして皆さんはいくつ制覇できるのでしょうか。

そして「頂上の間」を訪れると気づかれると思うのですが、実際は99段で終わっている階段。
完璧を表す「100」の1つ手前で止めることで、永遠に続く発展への願いが込められています。
文化財「百段階段」はその装飾の美しさから見ても、伝統的な美意識の最高到達点を示すもの。2001年に国の登録有形文化財に、2009年には東京都指定有形文化財になっています。
雅叙園東京で現存する唯一の木造建築として、存在そのものが美術品。唯一無二の芸術作品であり、江戸時代から受け継がれてきた日本の美意識の頂点ともいうべき意匠の数々を、ぜひこの機会に堪能してみてはいかがでしょうか。
東京都指定有形文化財「百段階段」 文化財建築特別公開 開催概要

文化財「百段階段」のレセプション
以前はホテル1階ロビー入って左手、螺鈿細工エレベーター脇にあったレセプションですが、今回より文化財「百段階段」の入口に設けられています。
受付ではチケットは販売されておらず、すべて文化財「百段階段」公式オンラインチケットでの販売となりますのでご注意ください。
※毎週水曜日、年末年始:2026年12月28日(月) – 2027年1月1日(金)を除く
【開催時間】一般入場 11時~ 17時(最終入館16時30分)
[金・土] 一般入場クローズ後の人数限定ガイドツアー付見学 17時~18時
[日・月・火・木]一般入場クローズ後の人数限定自由見学 17時~18時
【会場】東京都指定有形文化財「百段階段」(東京都目黒区下目黒1-8-1 雅叙園東京内)
公式オンラインチケットはこちら≫
■取材協力
株式会社目黒雅叙園
- 住所
- 東京都目黒区下目黒1-8-1 雅叙園東京内
- 営業時間
- 11時~ 17時(最終入館16時30分)
公開期間:2026年10月1日(木)~ 2027年3月30日(火) - 定休日
- 毎週水曜日、年末年始:2026年12月28日(月)~ 2027年1月1日(金)
- 最寄り駅
- JR山手線・東急目黒線 目黒駅
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※情報は取材当時のものです。来店の際は公式情報をご確認ください。







