【目黒区】“モガ”が闊歩した時代を愉しむ、「昭和モダン×百段階段~東京モダンガールライフ~」をホテル雅叙園東京で6月16日(日)まで開催中
日本美のミュージアムホテル、ホテル雅叙園東京・東京都指定有形文化財「百段階段」で春から初夏にかけて行われている展示会「昭和モダン×百段階段~東京モダンガールライフ~」におじゃましてきました。
文化財「百段階段」で大正ロマンをテーマにした展示会を初めて開催したのは2022年。
2023年は文豪が誘うノスタルジックの世界として、立東舎「乙女の本棚」シリーズと共演し、大正から昭和初期にかけて花開いた大衆文化と優れた文学作品を立体的に再現するという試みで楽しませてくれました。
【目黒区】文豪と現代のイラストレーターが紡ぎ出す物語の世界に没入!ホテル雅叙園東京「大正ロマン×百段階段~文豪が誘うノスタルジックの世界~」
3回目となる2024年は、大正末期から昭和初期にかけて現れた、近代的なライフスタイルを送る女性“モダンガール”をテーマとし、文化財「百段階段」の7部屋を舞台に“モガ”たちが享受した都市文化を鮮やかに蘇らせています。
それではさっそくご紹介していきましょう。
★文化財「百段階段」については以下の記事をご覧ください★
モダンガールが闊歩する大正末期~昭和初期へタイムスリップ「十畝の間」
一つ目のお部屋は黒漆の螺鈿細工と花鳥画が見事な「十畝の間」。ここでは大正末期から昭和初期にかけて東京の街を闊歩した“モダンガール”の装いを中心に展示しています。
お洋服のコーディネートは歌舞伎・演劇・映画・テレビ・舞踏における衣裳の制作・レンタル販売等を手がける松竹衣裳株式会社。展示エリアごとにご紹介していきましょう。
【職業婦人】エリアでは女給さんとタイピスト
1920年代頃から企業やカフェなどで働く女性が増え始め「職業婦人」と呼ばれるようになりました。それまでは雇用先に住み込んで働く“奉公”というスタイルの働き方だったものが、企業と個人で契約して働くという雇用スタイルに変化した時代。
「職業婦人」としての働き方は食堂やカフェで働く女給さんや百貨店で働くデパートガールやエレベーターガール、バスガイドなど。企業で働く事務員やタイピストも誕生します。
日本語はもちろん、外国語で書かれた手書きの書類を、タイプライターで清書するタイピストは高度なスキルが求められる職業としてお給料も高かったようです。
展示されているタイピストは当時の装いにしては少し華やかですが、知的な職業婦人というイメージがよくわかるいで立ちでした。
カフェの女給さんは着物姿で可愛らしい白いレース付きエプロン。当時は下駄を履いているのが一般的なのだそうです。
モダンガールやモダンボーイが集まるカフェのさんざめきが聞こえてきそうです。
【銀ブラ】エリアでは洋装・和装のモダンガール
「銀ブラ」とは「銀座をぶらぶら散歩する」という、大正時代に使われていたことば(銀座でブラジルコーヒーを飲むこと、という説も拡散しているようですが)。
当時の女性たちは髪をショートカットにし、レースやパールのアクセサリーで華やかに装うスタイルが流行していました。実際には洋装で歩く女性は少なかったようですが、百貨店やフルーツパーラー、時計店などが立ち並ぶ銀座の街をさっそうと闊歩するおしゃれなモダンガールの姿が目に浮かぶようです。
着物姿のモダンガールも幾何学模様やアール・デコ調の派手な柄で、帽子をかぶったスタイル。洋装のモダンガールは真知子巻(1953年映画「君の名は」の主人公・真知子のスタイルで大流行した)でキメています。
【夜会】エリアは美しい女性の装いに目を奪われる男性とともに
明治~大正期に入ると、後ろ髪の束をねじり上げて結い上げる“夜会巻き(髪を片側に巻き込んで左右非対称に結う)”というヘアスタイルが登場。日本髪から大正期に入ると断髪のモダンガールが登場し、昭和初期になると欧米文化がだいぶ定着し、東京や大阪ではダンスホールなども出現してきたそうです。
おめかしをして晩さん会や夜会、舞踏会へと出かけるモダンガール。展示での男性は洋装のモダンボーイとして、女性は華やかな着物姿でコディネートされています。
美しい女性の姿に目を奪われ、声をかけようか迷っているというワンシーンを再現。
女性は蝶柄の長じゅばんやべっ甲の帯留め、黒レース手袋、パールのネックレスなどディティールまで凝った装いですので、ぜひ近くでチェックしてみてくださいね。
モダンガールの心を奪った香水や化粧水、その姿をとらえた貴重な資料を展示「漁樵の間」
明治から大正、昭和初期にかけて洋風化に合わせて輸入されてきた舶来品。それらをオマージュして国産品なども登場した香水や化粧品など約80点を展示している「漁樵の間」へ。
それまで使われてきたおしろいや口紅とは違って、使い心地もさまざまで華やかななデザインが施された美しい容器。職業婦人や夜会などに出かけるモダンガールたちの心をさぞときめかせたことでしょう。
かつては高校を卒業する頃に、化粧品会社が学校を訪れ、お化粧の仕方などを教えてくれる講習会を開催していた時代がありました(最近はもうないようです)。
上写真は1903年(明治36年)創業の中山太陽堂(現・クラブコスメチックス)が所蔵している“卒業お祝いセット”。当時は「近代美粧」を掲げ、見ためだけではなく、教養や社交性、センスなど中身を伴ってこそ“モダンガール”であるという考え方を紹介していました。
当時のモダンガールのおしゃれな姿を捉えた人形や菓子箱、スタンプ、広告など貴重な資料が多数展示されていますので、ぜひじっくりと見学してくださいね。
モダンガールがグラスを傾けたレトロモダンな「Bar」が「草丘の間」に登場!
礒部草丘の四季草花絵が欄間に描かれた「草丘の間」になんと、レトロモダンな「Bar」が出現。美しいステンドグラスとアンティークなバーカウンターが迎えてくれました。
飲食の提供はありませんが、“モガ”になり切って「文化財Bar」で記念の写真をぜひ撮影していきましょう。
「婦人世界」1929年(昭和4年)7月に掲載された「モダンガールの資格十ヶ條」の第四條には「洋酒と名のつくものは人通り飲んで、しかも名前を覚えなければならない」と記されているそうです。
第一條には「第一に彼女はしとやかな女らしさの敵でなくてはならない」、第二條には「どんなにお汁粉が食べたくても我慢して喫茶店に入らなければならない」とあります。
モダンガールであることはなかなか大変なことだったようですね。
「静水の間」では竹久夢二が描いたモダンガールの世界
竹久夢二といえば独特の美人画で一世を風靡した「大正ロマンの画家」として知られています。日本橋「港屋絵草紙店」を開き、自分自身が図案を手がけた千代紙、便せん、半襟などを販売し、商業美術でも活躍。
2024年は夢二生誕140周年、没後90年に当たる記念の年となっています。
楽譜のデザイン、雑誌の挿絵、本の装丁などマルチな活躍をした夢二。今回の展示会では1924年(大正13年)創刊の雑誌「婦人グラフ」表紙や「セノオ楽譜」シリーズ、「中山晋平作曲全集」「令女界」などに描かれたモダンガールを展示していました。
「婦人グラフ」は高級雑誌で表紙や挿絵は木版画(のちにはオフセット印刷に)を張り込むという大変手の込んだ作りだったそうです。
「星光の間」では謎多き小林かいちがデザインしたモダンガールの世界
小林かいちは大正末期から昭和初期にかけて、京都の土産物店「さくら井屋」の木版刷り絵封筒や絵葉書の図案などを手掛け、絶大な人気を誇ったグラフィックデザイナーです。
アールデコの影響を強く受けながらも、独自の抒情性をシンプルな画面構成と色彩で表現。ハートやバラ、トランプなど西洋的でロマンチックなモチーフを採用しているところも、当時の女学生たちの心を捉えたポイントだったようです。
デザインの素晴らしさはもちろんのこと、当時の版画技術(絵師・彫師・摺師)も卓越しており、細かい表現の美しさに思わずため息がもれます。
しかしこの小林かいち、20年ほど前までは本名・性別・出身地さえわからない謎に包まれた作家だったとのこと。
竹久夢二と小林かいちの作品展示に協力した株式会社港屋さんのお話によると、1990年代以降、海外コレクターによる日本の絵はがき展が相次いで開催されたことにより、再び小林かいちの作品が注目を浴びるようになったとのこと。
2008年には、遺族の方が名乗り出たことにより、少しずつ経歴が明らかになっていきましたが、まだ全容は謎のままです。100年以上前に描かれた作品とは思えないほど、斬新で魅力的な作品、ぜひ皆さんもその目で確かめてみてはいかがでしょうか。
江戸川乱歩が描く「大正デカダンス」の世界を臨場感あふれる展示で「清方の間」
2023年の展示会でフューチャーされた立東舎「乙女の本棚」シリーズから、怪奇幻想小説を代表する作家・江戸川乱歩と人気イラストレーター・夜汽車のコラボレーションによる「人でなしの恋」を立体展示で表現した「清方の間」。
「人でなしの恋」とは以下のようなあらすじです。
人でなしの恋、この世の外の恋でございます。
美男子と結婚して約半年。ある日夫の奇妙な行動に気づき、その後を追ってみると・・・。引用元:立東舎「乙女の本棚」シリーズ「人でなしの恋」より
夫の後を追って土蔵へ行き、そこで目にした衝撃的な光景とはいったいどんなものだったのか。作品を読んでから行くか、見てから行くかはあなた次第、というわけです。
大正時代は怪奇趣味や江戸趣味とともに「大正デカダンス」ということばも流行し、当時の現実世界からの逃避や乖離、退廃的な気分を感じさせます。モダンガールたちが生きた時代の、耽美と幻想の文化世界を現代的なイラストレーターが描くことで、新たな命を吹き込まれた展示となっていました。
いつの時代でもその時を精一杯生きたモダンガール、「頂上の間」では現代アーティストとのコラボレーション
7つ目のお部屋「頂上の間」では“モダンガール その先の時代へ”がテーマ。神秘的な女性像を描いた作品で国内外に多くのファンを持つ画家・加藤美紀さんのできたてほやほやの新作をお披露目。
加藤さんが描く異界と現実の狭間に現れる、妖しく神秘的な女性が文化財「百段階段」とのコラボレーションとして描かれています。
着物ブランドとのコラボレーションも数多く手がけ、今回描かれている女性が着ている着物は大野らふさんによるスタイリング。アールデコと和洋ミックスの小物でモダンガールらしい装いにコーディネートしたそうです。
夜会から抜け出した女性のもとへ、「静水の間」の天井画に描かれた鳳凰が訪れています。女性が立っている背景も文化財「百段階段」となっており、作品世界へ自然と誘われる秀逸な作品。
「頂上の間」ではもう1つ、昭和初期に少女雑誌「少女の友」の人気画家として一世を風靡した中原淳一の複製画も展示されています。
時代の最先端を駆け抜けたモダンガール。精一杯その時代を格好良く生きた女性たちの姿の一端に触れることができる「昭和モダン×百段階段~東京モダンガールライフ~」にぜひ足をお運びくださいね。
【開催期間】2024年3月23日(土)~6月16日(日)
【開催時間】11時~18時(最終入館17時30分)
※会期中は無休、4月9日(火)は16時30分まで(最終入館16時)
【開催場所】ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
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4月8日(月)からは「昭和モダンアフタヌーンティー」もスタート
ホテル雅叙園東京の「New American Grill “KANADE TERRACE”」では企画展と連動した「昭和モダンアフタヌーンティー」を期間限定で販売。
プリン・ア・ラ・モードをはじめ、当時流行したさまざまなスイーツと、セイボリーには懐かしの洋食メニューを楽しめるようになっています。新しい時代の到来を象徴するアイコンだったモダンガール、モダンボーイ気分で、ノスタルジックなティータイムを楽しんでみてはいかがでしょうか。
展示会の入場券付きのプランもあります。
【開催期間】2024年4月8日(月)~6月16日(日)
※4月7日(日)までは「さくらアフタヌーンティー」を開催中。
【開催時間】15時~17時30分(L.O)
【開催場所】ホテル雅叙園東京「New American Grill “KANADE TERRACE”」
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■取材協力
ホテル雅叙園東京
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